その他

□2012・V.D記念
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※親子バレ後。

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「…どうしたんだ?それ」


宿の入り口でクラトスとばったり鉢合わせをしたロイドは、買い出しに行ったはずの男の腕の中に抱えられている予想外の荷物を見て驚いた。


「街を歩いていたら、突然押しつけられてな…」


クラトスのほうも予想外だったのか、その声は少し困惑気だ。
改めてロイドは、彼の腕に抱えられているものへと視線を戻す。
綺麗にラッピングされた大量にあるそれらは、さっきコレット達に貰ったものと似ているせいか、どう見てもアレにしか見えない。


「あー…。今日はバレンタインだもんなぁ」


困ったように立ち尽くす男の顔を見ながら、ロイドはぼやいた。
そういえばこの男はモテるのだ。と、今更ながらに思い出したからだ。
何というか…ゼロスと違ってクラトスは、一緒に街中を歩いていても女性に囲まれるとか声をかけられるという事が滅多にない…というか、ロイドがまだ遭遇したことがないせいかどうにも忘れがちなのだ。
だが、彼がまだクルシス側で隠密行動をしていた頃にも、ロイド達が訪れる街中でよく噂をされていたのを耳にした事はそれこそ数えきれないくらいあったし、もしかしたらクラトスが一人で行動している時は案外ゼロスのように囲まれていたのかもしれない。なんて今は思っていたりする。
今日だって、いつもはおとなしい彼のファン層の女性達が勇気を出してクラトスにチョコを渡したのかもしれないし。
そこまで考えて、ロイドは少し複雑な気持ちになった。
彼に関しては、色んな感情を持て余している自覚があるからだ。
それは今は置いておくとして
目の前で珍しく疲れたような顔色を隠さないクラトスに、どう声をかけるべきかとロイドは少し思案していたが


「女性というのは、集団になるとすごいな…」


クラトスが疲れの感じる重い溜息を吐いた。
やはり、囲まれてもみくちゃにされたのか。と、ロイドはそっと視線を逸らす。
よくよく見れば、クラトスのマントの端が所々不自然によれていた。
まるで、手で掴まれて引っ張られたような。
とりあえず、お疲れの意をこめて腕を叩いたら怪訝な表情を返された。


「そういえばアンタ、バレンタインのこと知ってたんだな?」


何処となく浮き世離れしていると感じるこの男が、こういうイベント事を知っているのが他意なく不思議だったし、この男の感覚ならバレンタインの慣習なんてつい最近新しく出来たばかりのものなんじゃないか?と思って聞いてみれば


「…そこまで世事に疎くはない」


と、どことなく嫌そうな顔で返された。
もしかしたら、年寄り扱いされたと誤解したのかもしれない。
だが事実、目の前の男はとんでもなく長生きだ。
その感覚は俺にはいまいち理解できないが。


「せじ?って何だ?…あー、まぁいいや。とりあえず、それ部屋に置いてきたらどうだ?」


分からない単語に反射的に聞き返してしまったが、一瞬にしてロイドの嫌な方向に空気が変わったのを察して慌ててそう提案すれば、一度腕の中の荷物を見下ろしたクラトスが、少し思案したのち頷いた。


「…それもそうだな」


そう言って横を通りすぎる男を初めはそのまま見送りかけたが、腕にあんな大量の荷物を抱えたままでは部屋の扉を開ける事が出来ないのではないか?と思い至り、手伝うべきかと一歩踏み出しかけたところでクラトスが先に振り向いた。


「忘れていた。土産だ」


数歩離れていた距離をあっという間にまた縮めたクラトスは、器用に片腕で荷物を抱えたまま反対の手で探った懐から何かを取り出す。
それをそのまま手渡され、ロイドは思わず首を傾げた。
渡されたものは、どう見てもクッキーにしか見えなかった。
いや。間違いなくクッキーだろう。
中身が見えるように可愛くラッピングされている。
色が黒いから、味はチョコ味なのかもしれない。

そんなことよりも


「…土産って…」


たった今バレンタインの話題を出した後でこれを渡される意味はなんだろうか?
土産ということは、もしかして彼が買ったのだろうか?
………何のために。

色んな意味で固まったロイドに気付かず、クラトスはいつもの無表情のまま足りない情報をくれた。


「さきほど寄った店で新商品の試作品を貰った。お前に押しつけるようで悪いのだが…、いらないのならコレット達にでも渡すといい」


何でもないことのように言われたそれに、純粋に彼が好意で渡してくれたことはわかった。
だからこそロイドは慌てて否定した。


「いや、俺が食うよ!ありがとな、クラトス!」

「?……そうか」


多分、そんなにクッキーが食べたかったのか。とか、そんなことを考えていそうな表情のクラトス。
だが、ロイドのほうは嬉しさのあまりそれどころではなかった。
だって、例えクラトスがそういう意味で渡していないのだとしても、渡されたロイドにとってはたったいま重要な意味を持ってしまったのだ。
けれど、まだ告げるべきではないのも理解していたロイドは、来月のお返しをいかに彼に悟られずにさりげなく偶然を装って渡すかを今から考えながら、浮かぶ笑みを抑えられなかった。







end








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