その他

□二対のしっぽ
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※アニメ設定。
※多分、最終回後。
※雪男の尻尾に未練がありました。
何故見せなかったアニエク!

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穴が開くほど…って表現が比喩じゃないくらいに凝視されて、雪男は居心地悪そうに身動いだ。


「兄さん…言いたいことがあるなら言って」

「お前の尻尾って普通だよな」

「……あたりまえだろ」


どうやら目の前の兄は、弟ではなく弟の一部分である尻尾を凝視していたようだ。
それにしてもこの兄は、己の双子の片割れである弟の尻尾を一体どんな奇抜な物体で想像していたのか。
その形状と色が兄の想像していたものと違ったのか、あからさまにつまらないという態度を取られて、雪男は苛つく心情を吐き出すようにため息をついた。
むしろ、双子なのだから尻尾の形も色も兄と一緒なのは当たり前の事だと最初に自らの尻尾を見た時から疑問すら浮かばなかった雪男からすれば、形状が同じ事に色んな意味で落胆したのか残念そうな表情でいまだ弟の尻尾を観察している兄のほうが、実は不思議で仕方なかったりする。
もしかしたら兄は自分と同じ尻尾は嫌なのだろうか…とも一瞬考えはしたが、同時にこの兄はそもそもそういう事すら考えもしない人だという事も分かっていたので、本当に純粋に同じ形状だったのがある意味予想通りでおもしろくなかっただけなのだろう。


「うーん。つまんねー」

「つまらなくていいよ」


僕の尻尾に何を求めているんだ。と呆れ混じりの瞳で訴えてみたが、向けられた側の兄は一向に顔を上げず尻尾を凝視したままなので無意味な訴えになってしまっている。
その浮かぶ不服そうな表情に、こちらが不服だと思っていると燐の手がおもむろに伸ばされた。
標的はもちろん雪男の尻尾で
その手から逃れるようにゆるりと尻尾が横にずれると、燐は上目遣いでむっと唇を尖らせた。


「何だよ、ちょっとぐらい触らせてくれたっていいだろ」

「……ダメ。力の加減なく握られそうだし。それに、兄さんだって僕が触ろうとすると嫌がって逃げるくせに、弟にはその嫌がる事を強いるっていうの?」

「それはお前が強く握りしめるからだろ!?俺はただ触った感触が知りたかっただけで……それでも嫌か?」

「……それでもダメ」


そっか。と腕と一緒に肩も落とす兄を複雑な眼差しで見下ろす。
これは尻尾が生えてから初めて知ったことなのだが、尻尾というものは本当に己の体の一部なのだ。
要は、そこを触られると何ともいえない変な…妙な気分になる。
多分、感覚的には人間でいう皮膚に触られているのと近い感覚なのだろうけど、今までなかった部分が面積を増やして生えた所為か雪男の場合どうも頭のほうでは、尻尾は体の一部分にも関わらず一部分だと認識していないようなのだ。
情報の伝達がうまくいかず噛み合っていない状態…とでもいえばいいのか。
とにかく、尻尾に何かが接触するだけで何とも言い表わせない気持ち悪さを感知し、その所為でひどく落ち着かない気分になるのだ。
だからこそ、日常的に尻尾を外気に晒したまま過ごす兄がすごく奇妙だったりする。
もしかしたら、本人に似て尻尾のほうも鈍感だったりするのかもしれない…と半ば本気で考察した時もあったが、握ればちゃんと痛覚があって痛いみたいなので多分尻尾が鈍いのではなく知覚する頭のほうに問題があるのだろうと思っている事は、兄には内緒だ。
実際には、表に出す事によって起きる様々な煩わしさより隠す事による窮屈さのほうが兄にとっては重要なだけなのだろうけど。


「…さっきから何なの」

「何が?」

「僕のも兄さんと同じ尻尾なんだから、そんなに珍しいものでもないだろ?見たければ自分のを見ればいい」


さすがに、長時間見られ続ける事が居心地悪くなってきたのと面倒くさいのとで半ば投げ遣りにそう提案すれば、燐はきょとんとした表情で首を傾げた。


「俺が俺の尻尾見たっておもしろくねぇだろ。雪男のだから見たいし触りたいんじゃねぇか」

「…僕のだから?」

「ん?雪男以外のなんて俺は見たくも触りたくもねぇよ」


何でそんな当たり前の事を聞くんだ?とでも言いたげにまた首を傾げる燐に、雪男はむず痒いような何とも言えない微妙な表情で見下ろした。
確かに、雪男だって兄以外の尻尾なんて興味もないし進んで触りたいと思った事もない。
研究材料としての興味は別として。
その点に関しては兄に同意見だ。
ただ、自分のを見てもつまらないという気持ちは分からなくもないが、正直兄の尻尾は持ち主に似て感情豊かによく動くから、そういう意味では見ていておもしろいと雪男は常々思っていたりする。
だからこそ、普段兄ほどに尻尾が頻繁に動かずいまだにどうすれば尻尾が動くかがいまいち感覚として掴みきれていない雪男の尻尾など、見てもつまらないと思うのだが。


「でも、お前がそんなに嫌ならもう見るのはやめる。俺と同じだってのはわかったからな。でもなぁ…」

「…今度は何?」

「いや…俺と同じ尻尾ってのも兄弟っぽくて嬉しいけど、雪男っぽい尻尾も見てみたかったなぁ…なんて」

「…僕っぽい尻尾ねぇ…、例えば?」

「え。…眼鏡とか黒子?」

「意味がわからない」


そもそも眼鏡とか黒子に似た尻尾という形がまず想像できない。
…これは、最初から喧嘩を売られていたのだろうか?
燐がしゃがんでいるため見下ろす形のまま、雪男がずり下がる眼鏡のブリッジを指で押し上げると、揺らぐ空気から何かを察したのか燐が後退さるように足を引き少し体を後ろに下げた。
その尻尾の先端は、持ち主の心情を現しているかのように若干垂れぎみで


「……僕も」


目の前で不安そうにゆらゆらと揺れている兄の尻尾を見つめる。
連動するかのように、普段は意識していない己の尻尾が動いているような振動を尾てい骨に感じて、雪男はその不快さに目を閉じた。


「兄さんとおそろいで嬉しかったよ」

「お…おぅ?」


閉じた目蓋を持ち上げれば、見上げる燐の瞳が何故か戸惑ったように揺れている。
雪男は自然と笑みを浮かべていた。
自分から先に言ったくせに何を恥ずかしがってるのか。
次第に頬が赤く染まり狼狽えだした燐を見下ろしながら、雪男は更に口の端をつりあげた。


「何その反応。兄さんは僕と一緒だと嬉しくないっていうの?」

「んなこと言ってねーだろ!それに俺が先に言ったんだから俺のほうが、雪男よ…り…っ!」

「僕より…何?」


よほど嬉しそうな眼差しを向けていたのか勢いで口を滑らせた燐が途中で我に返り、ひ…っ卑怯だぞ!と更に真っ赤になりながら叫ぶ。
怒っているというより照れているほうが比重が大きいのだろう。
その証拠に、ぶんぶんと勢い良く振られる尻尾。
兄を見なくても、その時兄がどんな感情なのかがよくわかるのだから、この尻尾は本当に便利だ。
もっとも、己の尻尾は兄とは違って感情に直結していないのかまだ生えたばかりで慣れていないからか動きが不規則なので、他人に自分の感情がバレるという心配は暫くの間はないだろう。
その事に安心したのと同時に、少しだけ残念だとも雪男は思った。


「……らな!…って、おい。聞いてんのか、雪男!」

「聞いてるよ。それより兄さん、いま何時だと思ってるの。夜中にそんな大声で叫んだら近所迷惑だろ」

「ご…ごめん。…って、ここ俺達しか住んでないだろ!」


騙されるところだった!と騒ぐ兄に、雪男は腰に手をあてため息をつく。
変わらない日常が再び訪れた事に、安心とともに嬉しさがこみあげてくる。
ふとまた振動が伝わった気がして、ちらりと横目で背後を見るといつもは不規則で最小限の動きしかしない筈の己の尻尾がゆらりゆらりと大きく揺れていた。
思わず目を見開くが、すぐに笑みが零れる。
僕の尻尾は、確かに兄と同じものなのだ。
ゆらゆらと揺れる尻尾をそのままに、雪男は目の前で騒ぐ兄を大人しくさせる為に自らと同じ形をした尻尾を捕まえるべく、兄の背後へと手を伸ばした。







end










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燐の尻尾は敏感そうだけど雪男のは鈍いといいな。とか色々考えてしまう。
双子可愛い。
燐雪も書きたいな。

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