その他

□ゆらめく余情
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閉じていた瞳を開いたユーリは、濡れて色づく唇にゆっくりと舌を這わせるとフレンへと視点を合わせその瞳を細めた。


「お別れのキスにしては少し長いんじゃねーか?」

「…ユーリが悪い」

「誘った覚えはねぇんだけどな?」


まるで子供のような言い草にユーリは苦笑する。
そして目線を交差させ、どちらともなく顔を近付けると再び互いに互いの唇を塞いだ。
ユーリの腕がフレンの首へと回りより深く唇と体を触れ合わせる。
相手の吐息ごと奪うように舌を絡ませ合いながら、フレンは腰を抱き寄せていた手を彷徨わせ始めた。
少し目を開くと眼前には瞳を閉じたユーリの顔。
長い睫毛がフレンの手や舌の動きを感じてか震えている。
布の上から腰を撫でていたが物足りなくなったフレンは、その手を更に下へと忍ばせた。
その不埒な手に気付いたユーリが薄く瞳を開き片眉を器用に動かすと、絡む舌を解き唇を離そうと首に回していた手を肩へと移動させるがフレンはそれを許さず、抵抗をねじ伏せるように背中に回していたもう片方の手を首へと上げた。


「ぁ…、ふ…っれん!やめっ…」


はっきりとした意志を持って抵抗し始めたのを押さえ付けるように丸い頭を掴む。
長い髪に手を差し込み、息苦しさに喘ぐ声すらも奪うように逃げる舌を追い掛けた。
眉間に皺を寄せたまま何か言いたげに舌を逃がし続けるユーリの訴えを、瞳を閉じる事によって気付かない振りをしていたが、足を僅かに後ろへ下げた気配から次の動作を察したフレンは名残惜し気に唇を離した。
少し足をふらつかせたユーリは、痺れる唇を手の甲で拭い弾む息を整えながら睨み付ける。


「…手癖が悪いぞ、フレン」

「親友に似たのかな」

「……へー。その何処ぞにいる騎士団長様の親友ってのは、さぞかし悪い奴なんだろな」

「そうだね。いつも誘惑してくるから困ってる」

「誰が…、…っ!?」


大袈裟に肩を竦めながら笑って告げた言葉に反論しかけた唇を再び塞ぐ。
ユーリは今度は抵抗せず、しかし瞳だけは閉じず非難するように睨みつけてはくるけれど、その目元は赤く染まっていて逆効果だ。
潤む瞳に煽られて、フレンは再びユーリの下肢へと手を滑らせた。


「ごめんユーリ。止まらない」


言葉で謝罪しつつも手を止めるつもりは全くないので焦らすようにゆっくりと裾を捲り手を入れると、それまで比較的おとなしく受け入れていたユーリが肩に手をつき懇親の力で引き剥がし始めた。


「……のっ!…とま…んじゃ…てっ、…止める、…んだよっ!」


突っぱねた腕と同じ距離だけ離れた唇と体にフレンは無意識に追うように一歩踏み出すが、すかさず伸びてきた手で口元を覆われた事によってそれすら阻まれた。
仕方がないので足を引き元の位置に戻ると、ユーリは不満げな表情を浮かべるフレンを一瞥し呆れたようにため息をついた。


「時間と場所を考えろ」

「…君にそれを言われるとは思わなかった」

「……おい。俺がいつお前を見境なく襲ったっていうんだ?」

「さっきだって乗り気だったじゃないか」

「っあれだけで、俺は引くつもりだったんだよ!」

「だったら、時間と状況を考慮して不都合がなければ何をしてもいいって事だね?」

「まぁな」


行為を中断されたのもあって、むっとして言い募れば予想外にあっさりと肯定されてフレンは一瞬言葉に詰まった。
対するユーリはその様子に呆れて半眼になりつつも、苦笑するように笑みを零した。


「俺が、いつ、おまえの誘いを、断るって言った?」

「え…?」


そのあからさまな誘いの言葉に動揺からか困惑するフレンを尻目に、ユーリは面白そうに口の端を釣り上げると見せつけるように唇を舐めた。
濡れて赤みが増した唇と舌に目が釘付けになる。
少し顎を引き挑発的な眼差しで見上げてくるユーリにフレンが目を細めていると、僅かに傾けた顔が近づいてきた。
軽く触れる唇。
薄く柔い皮膚を通して接触を確認すると、追われる前にユーリはすぐに後退し距離を取った。


「適切な時間と状況の時にまた来てやるよ」

「ユーリ…!?」


追い縋るように思わず伸びかけた手を、ひらりと軽く手を振った事で躱したユーリは猫のように素早く体を翻すと開かれた窓へと駆け寄り、そのまま淵に足を乗せ窓の外へと身を躍らせた。
声をかけるタイミングすら逃し中途半端に掴む事すらできずに上げていた手を下ろしたフレンは、火照った頬へと手の甲を当てた。


「……逃げられた」


風に揺らめくカーテンを呆然と見つめる。
相変わらず早いその逃げ足に思わず苦笑が漏れた。
未だ持て余したまま籠もる熱。

自業自得でしかない。
それでもやはりすぐには発散出来ない事に途方に暮れつつも

とりあえず
夕闇の頃に彼はまた来ると約束してくれたので、それまでにはこの書類の山を片付けておかなければならないな。と思いながらフレンもまた机へと踵を返した。







end






++++++++++

……エロくない…。
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