その他

□私と君の関係性
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長門はまだか。
朝比奈さんでも、この際ハルヒでも構わん。
誰か早く来てくれ。

じゃないと


「……キスがしたい」

「…っ…またかよ」


本当にどんな小説を読んでいるんだお前は。恋愛小説か?


「いえ。これは僕の今の気持ちです」

「……は?」


思わず隣へ視線を向けると、古泉は何とも形容しがたい微笑を固定したままこちらを見つめていた。


「今…、していいですか?」


何を…と迂闊には聞けない雰囲気に困惑する。
まさか、キス…とか言いだすんじゃないだろうな…。しかも、それを俺に言ってどうする?そして、何故俺に許可を求める?

真意が分からず視線を合わせたまま黙る。その反応に、意外だと言わんばかりに古泉は首を傾けた。


「……おや」

「……何だよ」

「いえ…」

「!?」


何となく視線を逸らした隙に接近していた顔。
思わず逃げ損ねて固まっていると唇を何かが掠めた。
触れる吐息。
何とも言えない感触。


「逃げないんですね」

「…な…っ!?」


キスをしたいって…俺にかっ!?
突然の事に頭が混乱しつつも自らの唇を隠すように手で覆うと、椅子を後ろに引き異様に近かった顔をいま可能な限りで最大限遠ざける。男にキスをされて確かに嫌悪感を感じているのに、それに勝る程の羞恥で顔が火照ったように熱い。耳まで真っ赤になっている自覚がある。
そんな俺を古泉はただ微笑を浮かべて見ていた。


「キスを…したかったので」

「男にかっ!?」

「まさか。あなたにだけです」

「……俺は男だぞ」

「そうですね」

「……とうとう、頭がおかしくなったか?」

「多分、正常だと思いますが」


俺が断言してやろう。男の俺にキスをするなんて奇行に走るお前の頭は間違いなくおかしい。
そもそもその奇行に巻き込まれて男にキスをされてしまった俺の気持ちはどうなる!?


「嫌がってるようには見えなかったので」


思い切り嫌がっていただろうが!それに俺は許可を出した覚えもない。


「…その反論ですと…許可さえ取れば、あなたにキスをしてもいいとも取れますが?」

「……っ」


思わぬ反撃に一瞬言葉が詰まった。嬉しそうに、にこにこと笑っている古泉が憎い。

漂いだした微妙な空気は、間違いなく俺にとって不利な状況を作るだろう事だけは分かる。
そうなると俺に残された選択肢は一つ。


「……帰る…っ!」


逃亡だ。
これ以上このおかしな空気の中にいたくなくて、椅子を後ろに蹴り倒すのと同時に鞄を掴み扉へと駆け出した。


「あ。待って下さい」


後ろから聞こえる声を無視し開いた扉を壊れる位の勢いで閉める。瞬間、解放された空間に安堵して座りこみそうになったのを意地でも耐えると扉を背に佇んだ。
何をやっているんだ俺は……いや、俺達は…か?
生々しい感触がまだ唇に残っている気がして、袖で乱暴に拭った。
男にキスをされて嫌悪はあるのに、吐き気がするほど嫌じゃなかった気がするのは幸か不幸か。
耳が熱い。
震える膝。
帰るって言って出てきてしまったが、そもそもまだ部活すら始まっていない。このままだとサボりという事になるが、正直今日は部室にもいたくない。
それもこれも全部古泉が悪い。そうだ。俺がハルヒに怒られたら全てあいつの所為にすればいいんだ。

……古泉にキスをされたから…ってか?

そこまで考えて再び顔に熱が集まる。


「……言える訳がないだろっ…」


と、なると…やっぱりハルヒが来る前に逃げるしかないのか。
そう思っていても、足は何故か動かない。
物音から推測するに帰り支度をしているのか、このままだと古泉も来てしまう。顔を合わせづらくて部室を出てきたのに、これでは何の為に部屋を出てきたのかわからない。でも足が動かない。
しかもこの状況は当事者達以外から見れば、まるで待っているみたいではないか?
……冗談じゃない。今すぐにでも俺は逃げたいんだ。でも足は動いてくれない。


ぐるぐると無駄にループし続ける思考。静寂が支配する廊下で、妙に響いている気がする心臓の音が煩い。
俺は、ただ閉じている扉に寄りかかり続ける事しか出来なかった。









end





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ちょっと珍しいかも?
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