その他
□昇華される想い
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※後半に、ED後捏造入ります。
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翼が欲しいと思った時期があった
正確には…今も、たまに思う時がある
………違うな
最近"また"思うようになった…だ
周辺より少しだけ高くなっている丘に一本だけ生えている、まるで目印のように目立つその木の根元に座りながら、ぼんやりと空を眺める。
地上からは小さな粒のように見える鳥の群れが右から左へと通りすぎ
風が吹く度に揺れる草木の擦れる音が耳に心地好く響く。
広大な大地と
柵のない世界
昔は、あの鳥籠のような小さな"世界"から出る為の翼が欲しかった。
だから、広大な空を自由に飛べる翼を持っている鳥が純粋に羨ましかった。
……檻の外を自由に飛び回れる鳥が妬ましかったんだ。
レプリカは、"人間"の貌をした第七音素の塊だ。
正確には元素を繋げてるのが全て第七音素って事らしいんだけど簡単に言ってしまえば、そんな感じで間違っていない筈。
単一の音素で繋いでいる所為か、それ故に維持するのが難しいらしくレプリカは最終的に乖離してしまうものらしい。
要は、繋いでいた音素が解けてばらばらになった元素が、まるで空気中に溶けるように消えてしまうということだ。
そして、その音素は空へと昇り世界を巡ってやがて地殻へと還っていく。
そうしてまた空へと登るのだ。
もしかしたら、世界を駆け巡っている最中に、時には生物の…または植物等に吸収される事もあるのかもしれない。
どちらにしても、そう遠くない日に自分もまた乖離する運命にあるというのは抗いようのない、ある意味では確定された未来だ。
同じレプリカのイオンは少し前に消えてしまった。
むしろ、還ったと言うべきなのかもしれない。
空へと昇るように溶けていったから、きっとイオンの音素達も今頃この世界の何処かで自由に漂っているのかもしれない。
自分が今、見上げているこの空にも…。
………いや。
分かっている。
それはもう"イオン"ではない。
ただの
無限にある音素の一欠片だ。
意識や自己なんてものは、身体が消滅したのと同時に一緒に消えてしまうだろう。
それは…とても怖い事だと思う。
今こうして、考え思い悩んでいる事も全て"無"になるという事だ。
そして、それらが"無"になった事にすら気付かず消失する。
ゆっくりと、天へと手を伸ばす。
この途方もない程に広がる空には、どれだけの音素が含まれ漂っているのだろう。
それがたまたま塊となってレプリカとして生まれ自己も確立出来た俺は、それだけで幸せなのかもしれない。
いや。幸せだ。
空へ飛ぶ翼を手に入れる前に、鳥籠から出られてしまったけれど
初めて出た外の世界では、あそこにいたままだったら出来なかった出会いや経験を、たくさん出来たのだから。
だから……
「…何をしている」
吹き抜ける風の音に混じり後方の頭上から聞こえた珍しい声に緩慢な動作で振り仰げば、己のオリジナルがいつも見る不機嫌顔でこちらを見下ろしていた。
「……あ…っしゅ?」
一際強い風が頬を叩く。
見下ろす静かな眼差しに、胸の奥がざわりと揺れた。
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