種
□小話
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2.時計
帰ってきたら、キラが床に這蹲っていた。
「…何してるんだ?」
「ん〜?あ。アスラン、おかえり」
床…絨毯に近付けていた顔をあげたキラに、ただいま。とだけ返す。
「えーと…。捜索中?」
「何を」
「螺旋?」
「……螺旋?」
テーブルの上を見ると、中途半端に完成させてあるような…見慣れた目覚まし時計が一つ。
「…分解したのか?」
「まぁ…そんなとこ」
誤魔化すように苦笑いを零すキラ。
こういう細かい事は苦手なくせに。
しかも、何でまた
「アスラン今朝寝坊しただろ?」
「何で知ってるんだ?」
「玄関開ける音で起きたから」
その言葉に、今朝の事を思いだす。
確かに今日は、珍しく寝坊した。
でもそれは、連日の忙しさで多分疲れていたから、鳴った目覚ましを無意識に消して再び寝てしまったのだろうと、そう納得していたから。
「何か調子悪いみたいだったから」
時計だし、直せると思って…そう言って時計を持ち上げる。
今は、あまり店先では見ない電池で動くタイプのそれ。
シンプルな形のそれを、一目で気に入ったキラが買ってきたものだ。
「何処に落としたんだ?」
「んー。もしかしたら落ちてないかも」
「……は?」
「落ちたような気がしたから」
そう言って撫でるように絨毯を触る。
暖かくて気持ちがいいだろうと、毛の長めの絨毯を買ったのが仇になったようだ。
「でも、数合わないんだろ?」
「うん」
だから床を探してた…と続けたキラに、嘆息しながらテーブルに近づく。
「…時計貸して」
反対側の床に座り手を伸ばすと素直に、はい。と渡される時計。
裏返してみれば、確かに蓋の部分の螺旋が一つ欠けていた。
これは、もう一回分解して確かめてみるしかないだろう。
もしかしたら、中の隙間に紛れ込んでいるかもしれないし。
始めからこうすれば良かった…と呟いたキラの声は、聞かなかった事にした。
end
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