種
□小話
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1.ペア
「あ」
静寂を裂くように、何かが割れる音が響いた。
「あー…」
「キラ?どうした?」
読んでいた本をソファへ置き、音のしたキッチンを覗き込めば、落胆したようにしゃがみこんでいるキラの姿がある。
「気に入ってたのになぁ」
かちゃ…っと固いモノが擦れ合う軽い音と共に、キラの手によって持ち上げられていたのは陶器の破片。
「…マグカップ?」
僕の。そう言って大きな破片同士を元に戻すように、かちかちとくっつけながら、キラは無意味な音を出した。
「あー…うー…」
「…キラ。足元危ないから、其処から離れて」
まるで、くっつけ…とでも言わんばかりに未だ、かちかちと破片を合わせているキラに、俺は新聞紙と掃除機を持ってこようと屈んでいた腰を伸ばした。
見た所、手は怪我していないみたいだから救急箱はいらないだろう。
「…お揃いだったのに」
合わせた欠片を床にそっと置く。
所々欠けた偽りのカップは手を離した途端、綺麗にまた真っ二つに割れて床に転がった。
テーブルの上には破壊される前のマグカップが一つ。
「キラ。明日買いに行こう」
「何を?」
「マグカップ」
そう言って、今度こそ新聞紙と掃除機を取りにキッチンを出れば、後ろからキラが、1つ?と聞いてくる。
それにリビングを出る前に、2つだろ。と答えると、扉を閉める直前キラの、ありがと。という嬉しそうな声が耳に届いた。
end
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